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仙台高等裁判所 昭和40年(く)31号 決定

被告人 佐藤武

主文

原決定を取消す。

本件保釈請求を却下する。

理由

本件抗告の理由は、検察官外山林一名義の抗告申立書並びに抗告申立追加理由書記載のとおりであるから、これを引用する。

本件記録によると、被告人は昭和四〇年四月四日銃砲刀剣類等所持取締法違反で公訴を提起され、「求令状」により同月五日これが勾留状の執行を受け、さらに同月一二日同法違反並びに殺人未遂罪により、また同年六月二二日銃砲刀剣類等所持取締法違反等の罪により各追起訴されたものであることが明らかである。まず本件が権利保釈の場合に該当するかどうかについて判断するに、刑訴法八九条一号については、必ずしも勾留の基礎となつている罪がこれに該当するものであることを要せず、右罪と併合審理されている罪がこれに該当する場合をも含むものと解するのが相当である。本件において殺人未遂の罪は勾留の基礎となつていないけれども、その基礎となつている銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪と併合審理されているのであるから、右殺人未遂罪の法定刑に照らし、本件は刑訴法八九条一号の場合に該当し、権利保釈から除外されるものというべきである。

つぎに本件殺人未遂関係の起訴の内容をみるに、被告人は的屋奥州寄居一家高瀬真男睦会の構成員で、同会の一派の首領株佐藤英夫の弟であるが、昭和四〇年三月一二日夜、かねて右佐藤一派を快からず思つていた同構成員、一派の首領株斎藤健児から、佐藤英夫の舎弟分斎藤隆雄、花田勝良等が暴行を受け、その憤懣にかられ同人等が斎藤健児を殺害せんとして、相共に拳銃を携え、翌一三日午前〇時三〇分頃、国鉄郡山駅前繁華街で拳銃を発射し、斎藤健児が拳銃をもつて応戦するや、被告人も斎藤隆雄、花田勝良と共謀のうえ、拳銃を振るい斎藤健児と打ち合い、右斎藤ほか一名に各全治約一月を要する傷害を与えた、というのである。

右の内容に併せ、被告人の境遇、家庭の状況、その他記録にあらわれた諸事情をみるに、本件は被告人に対し、刑訴法九〇条による裁量保釈を許可するのが適当な場合であるとも認められない。また事案の内容に照らし、同法九一条の「拘禁が不当に長くなつた場合」に該当するものとも認められない。

従つて弁護人の本件保釈請求はこれを却下するのが相当であり、これを許可した原決定は不当で、本件抗告は理由あるに帰する。

よつて刑訴法四二六条二項により、原決定を取り消し、本件保釈請求を却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 細野幸雄 畠沢喜一 寺島常久)

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